vol.54 大人の為替知識 その3
プロはここを見る!知ると得する!為替のこと
我が家のアイドル三男から突然投げかけられた質問(vol.50)から始まった為替のお話しの続きです。
為替が動く要因となる金利差をどのように見るのか、実践的に見ていきましょう。
先ずは中央銀行が実施する政策金利を見てみます。
世界三大市場の政策金利
政策金利(中央銀行)
アメリカ(FRB:連邦準備理事会)0.00~0.25%(Federal Fund Rate:民間銀行がFRBに預け入れる際の金利)
日本(日本銀行) -0.10%(当座預金:民間銀行が日銀に預け入れる際の金利)
ユーロ(ECB:ユーロ中央銀行) 0.00%(リファイナンス・オペ:民間銀行がECBに預け入れる際の金利)
景気が悪くなり経済が低迷すると中央銀行は世の中にお金を多く、金利を低めにしてお金を供給します。いわゆる金融緩和政策を実施します。
為替レートは取引相手の国力・経済成長力の強い方が通貨高になる傾向があります。
金融緩和政策を実施する国の経済は弱い状態を表しますので、その国の通貨が売られやすくなる傾向にあります。
投資や投機筋の世界では、金融緩和実施⇒通貨安の連想が先行されますので、特に定例で実施される先進主要国中央銀行の金融政策に注目が集まります。
5年前の2016年1月28~29日に開催された日銀の金融政策決定会合では、当時は著名・有名なエコノミストの誰もが想像さえしなかった決断がなされたのです。
マイナス金利政策です。
簡単に説明すると、民間銀行は日銀に一定額のお金を預けておくルールがあり、その一定額を超えるお金を預けると手数料を支払うことになるのがマイナス金利政策です。
つまり、日銀に預けずに、世の中へお金を潤沢に貸しなさいと言うシグナルなのです。
民間銀行は一般企業向け融資を、そして一般庶民には特に住宅ローンなどを低い金利で多く貸し付けることとなりました。
このマイナス金利政策により、住宅市場が活況になった訳です。
マイナス金利の詳細な仕組みの説明は割愛しますが、この驚きの発表を受け、円は大きく円安に転じていきました。当時は日銀総裁の名前を採り、「黒田バズーカ」と称され全世界にその名が轟きました。
更に、中央銀行は市場金利の操作もします。
住宅ローンなどを決める際のモノサシ役をする国債の利回り(金利とも言います。)を下げる目的で、民間銀行が保有している国債を公開市場操作と言う手法で買い上げます(買いオペ)。
日銀が民間銀行保有の国債を買う⇒日銀が民間銀行にお金を払う⇒世の中にお金が出回ると言った政策です。
これも詳細の説明は割愛しますが、市場金利は下がる傾向が強くなります。
マイナス金利政策を導入し、この買いオペが継続的に実施された結果、長期金利は一時マイナス0.34%まで下がりました。
この意味が理解できますか?
通常、金利は投資した(お金を貸した)人が受け取る利益の率を指します。
これがマイナスになる訳ですから、理論上は投資した人は損をする、言い換えるとお金を借りている人が利益を受け取ると言う逆転現象が起こるのです。
この環境下の大きなメリットとして、例えば住宅ローン控除を受けられる人は、一定額一定期間、実質借入れ金利がマイナスになることもあり、住宅販売市場が更に活況になりました。
ではここで、金利差を見てみましょう。
長期金利を比較するとアメリカが1.1%、日本がマイナス0.05%
金利差は アメリカ1.1%-日本マイナス0.05=1.15%
国の力が同程度だと仮定した場合、あなたはどちらの国に投資したいですか?
その通りです。日本に投資するとマイナスになりますから、アメリカに投資をしますよね。その投資の際には、円でドルを買って(円を売り⇒ドルを買う)アメリカに投資する。この取引が増え続ければ、円売り=ドル買い、つまり輸出に有利な円安となるのがセオリーです。
中央銀行の政策金利は自国の経済の強弱で判断・決定され、その結果、相手国との金利差が生まれ為替取引に大きな影響を与えます。金利差が増えれば円安に、縮めば円高になるのがマーケットの通常の反応です。
中央銀行の政策金利の噂が先に立ち、発表内容がマーケット参加者の期待を裏切る結果となった場合には異常な反応をすることもあることも覚えておきましょう。
このことを理解し、主要国の金融政策を見極めれば為替の動きが少しずつ見えてきます。
アメリカのバイデン新政権で組閣がなされましたが、そのなかで財務長官(日本の財務大臣のようなポスト)は過去2014年~2018年にアメリカ中央銀行FRB議長であったジャネット・イエレン氏です。
彼女は財務長官就任早々このように述べています。
「世界各国の自国通貨安政策を容認せず、断固たる措置に臨む」と。
安部首相とトランプ大統領との親密関係によって黙認されながら、大幅な円安を導いた大胆な金融緩和政策を日銀は、菅首相とバイデン大統領との今後の交友関係の行方を固唾をのみながら見守り、決断しなければならない日が来るかもしれません。