vol.53 大人の為替知識 その2

子どもからの質問に備えよう、為替のこと

我が家のアイドル三男から突然投げかけられた質問(vol.50)から始まった為替のお話しの続きです。

為替は大別すると4つの要因で変動します。

  1. モノの売買(受給)バランス
  2. 当該国の経済動向(拡大・縮小、対外黒字・赤字など)の強弱評価
  3. 地理的・政治的要因(資本主義国・社会主義国・中東・新興国などの首脳による発言)
  4. 中央銀行の金融政策(金利差)

(1.2.はvol.51で、3はvol.52で説明済)

4.中央銀行の金融政策(金利差)


専門用語がでてくると、なんとなく身が引けてしまうかも知れませんが、一度覚えればなぜ今まで知らなかったのだろうと思えるようになります。

身近な出来事で説明しますので想像しながらお読みくださいね。

各国の産出品や製品は世界中で取引されています。

貿易取引の度に為替レートがつきものになりますが、日本に一番身近なアメリカを例にとってみます。

輸出か輸入かにより、同じ為替レートであっても、当事者により良くも悪くもなります。

では、輸入から考えてみましょう。

ハワイに旅行し、おみやげにルイ・ヴィトンのバッグを買いたい。

おみやげを日本に持ち帰るので個人輸入したのと同じ経済効果になります。

価格が1,000ドル、為替レートが1ドル=80円だと円換算で80,000円を支払うことになります。

為替レートが1ドル=120円だと120,000円となりますから、1ドル=80円の方がお得なのは理解しやすいですね。

読者の方の中には実体験された方も少なくないと思います。

ドルを買う時に、少しでも少ない円でドルに交換できる方がお得になり、支払う円が少ない状態を円高、反対に多い場合を円安と表現します。

この場合はたいていの人が理解し易いはずです。

反対に、輸出を考えてみましょう。

あなたは任天堂の社員でスイッチをアメリカで売る担当者になったと想像してください。スイッチの競合商品の価格が450ドルだとします。

スイッチの価格は少し高く500ドルであっても人気があれば売れます。

しかしながら、円で売上と利益を考える場合には必ず為替レートが関わります。

為替レートが1ドル=80円だと円換算で40,000円。1ドル=120円だと60,000円になります。つまり、円の価値がドルよりも弱い(価値が低い)時の方が円の売上額が増えます。

任天堂から見ると米ドルに対し円が弱い(低い)円安の方が有利な販売が可能になります。

仮に、競合商品よりも価格面で売れ行きが悪いと判断された時には、円安であれば、円建てで最低利益を確保できる範囲でドル建てでの価格を下げることができます。

例えば1ドル120円の時には1割引して450ドルで販売しても、円換算で54,000円の売り上げが計上できます。

円建ての売上目標額が50,000円であれば、50,000円÷120≒417ドルまで下げられる、つまり価格競争力がつき、販売しやすくなるわけです。

日本政府及びお金の流通量と質(金利)を監視している日本銀行は、日本企業が海外で販売する時の為替レートをできる限り有利に、つまり円安になるよう金融政策を決定します。公にはそのように公表しませんし、名目的には国内経済活動を活性化させるよう金融緩和政策を実施すると称しますが、対外的本意は円安誘導です。

ここで大切なのが取引相手国との金利差です。

日本の民間企業が輸出で有利になるように、諸外国の金融政策を見ながら、迎え撃つように金融政策を実施し、円安へと誘導していきます。

7年8か月続いたアベノミクスでは大規模な金融緩和と称し、異次元(量的・質的)金融緩和(世の中にお金の量を増やし、金利を大きく引き下げること)を継続し、75円54銭にまで進んだ円高は2015年には125円台もの円安になり、事実、円安誘導に成功しました。

輸出企業は売上及び利益を伸ばし、リーマンショック後には7,000円程度だった日経平均株価は安倍前首相在任中(2020年8月の辞任表明前)に23,000円超の3倍以上に、アベノミクスを継承する菅政権下においても(執筆日現在)28,000円を超えています。

顕著な通貨安誘導政策には先進主要国首脳陣が通常は異論・反論しますが、世界一の経済大国アメリカでは過去に類を見ない大統領としてトランプ氏が政権を握ったこの4年間において、安倍前首相が親密な関係を築き維持した外交手腕のお陰で、アメリカから為替につきクレームをつけられずに済み今日に至りました。

1月20日に誕生したバイデン大統領と菅首相とのこれからの関係構築には目が離せません。

経済立て直しのための金融緩和政策は日本だけでなく、アメリカもユーロ諸国も実施しましたが、日本が先進国で先駆けてマイナス金利政策を導入し、景気回復の軌道をしっかりと作る結果を生み出しました。(マイナス金利政策は過去スイスが世界で初めて導入しています。)

但し、資源などを輸入しなければならない日本にとっては過度の円安は天然ガス・石油などの価格に直撃し、電力やガス料金にも大きく影響するので、輸出入ともに心地よい水準としては、日本政府も日銀も1ドル=110円辺りに落ち着くことを意識しているようです。 では、為替が動く要因となる金利差はどのように見るのか、次回は実践的に見ていきます。

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